公務員といえば定時帰りなどの安定したイメージが強いですが、インターネットで検索すると市役所は激務といった言葉や、辛いから辞めたいという声がたくさん出てきます。
これから公務員を目指す方は本当の実態が気になりますし、現職の方は激務な部署やメンタル不調に共感する部分も多いのではないでしょうか。
この記事では、なぜ市役所が激務化しているのか、離職率や採用への影響といった観点から詳しく解説していきます。
- 公務員の安定神話と現代の労働環境におけるギャップについて
- 特に業務量が多く精神的な負担も大きい具体的な部署の実態について
- 若手職員の離職率増加や採用倍率低下の背景にある構造的な問題について
- 激務な環境で働く職員が取るべきメンタルヘルス対策やキャリアの選択肢について
市役所が激務と呼ばれる実態と背景

「公務員は楽で安定している」というパブリックイメージとは裏腹に、現代の市役所では長時間労働や精神的なプレッシャーが常態化しています。ここでは、なぜ市役所がこれほどまでに激務と言われるようになったのか、その構造的な背景と現場のリアルな実態を掘り下げていきます。
崩れ去った安定神話と労働環境
かつて地方公務員、特に市役所の職員は「定時で帰れる」「ノルマがない」といった、いわゆる「安定神話」の代名詞として語られてきました。しかし、2020年代における地方自治体の労働環境は、そうしたイメージとはかけ離れたものに変貌しています。
その最大の要因の一つが、「ワニの口」と呼ばれる財政構造の問題です。人口減少に伴う税収の減少と、高齢化による社会保障費の増大が同時に進行しており、自治体は「限られた予算と人員で、増え続ける業務をこなす」という矛盾に直面しています。
かつてのような定型的な事務処理の反復ではなく、複雑化する社会課題への即応や、高度な法的判断が求められる場面が激増しており、現場は常に高ストレスな状態に置かれています。
市役所業務の変化と特徴
- 成果が見えにくい
利益という明確な数値目標がないため、ゴール設定が難しい。 - 無謬性(むびゅうせい)の追求
ミスが許されない減点主義の文化が、精神的な緊張を強いる。 - 逃げ場のない対応義務
民間企業のように「取引停止」ができず、全ての住民に対応しなければならない。
このように、数値化できない成果を追い求めながら、ミスが許されない環境で業務を遂行しなければならない現状が、肉体的な疲労以上に職員の精神を蝕んでいるのです。
負担が大きい市役所の激務部署

市役所の激務は全庁的に一律ではなく、特定の部署に極端に偏る傾向があります。これから入庁を考えている方や、異動を控えている方にとって、どの部署が「激務ハザードマップ」上のレッドゾーンにあるのかを知っておくことは重要です。
特に過酷とされるのが、以下の分野です。
| 部署カテゴリ | 激務の要因と特徴 |
|---|---|
| 生活保護・福祉課 | ケースワーカー1人あたりの担当世帯数が限界を超えているケースが多く、精神的な消耗が激しい「最激務部署」の筆頭です。訪問時のリスクや、複雑な資産調査に忙殺されます。 |
| 児童福祉・子育て支援 | 児童虐待対応における「48時間以内の安全確認ルール」などにより、24時間365日の緊張を強いられます。保育所入所選考(保活)に関するクレーム対応も長時間化しやすい傾向にあります。 |
| 財政課 | 出世コースとされますが、予算査定の時期は日付が変わるまでの残業が常態化します。「庁内ブラック企業」とも呼ばれ、1円のミスも許されない極限のプレッシャーの中で計数管理を行います。 |
| 税務課(収納) | 滞納者への催告や差押えなど、公権力を行使する精神的負担が大きいです。夜間や休日の臨宅(自宅訪問)も行われ、市民からの厳しい言葉を浴びせられることも珍しくありません。 |
| 危機管理・防災 | 災害時には最前線で対応するため、平時でも気象情報に神経を尖らせ、遠出や飲酒が制限されるなどプライベートな拘束時間が長くなります。 |
これらの部署では、長時間労働だけでなく、市民の人生や生命に直結する判断を迫られる場面が多く、プレッシャーの質が他の部署とは明らかに異なります。
住民対応とカスタマーハラスメント
市役所職員を最も苦しめている要因の一つが、一部の市民による理不尽な要求や暴言、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスカラ)」です。行政には「公平性」と「対応義務」があるため、民間企業のように悪質なクレーマーを簡単には排除できないという構造的な弱点があります。
「税金泥棒」「死ね」といった人格否定の言葉を浴びせられたり、窓口に何時間も居座られたりしても、職員は「全体の奉仕者」として感情を押し殺し、冷静に対応し続けなければなりません。
このような「感情労働」の負荷は極めて高く、真面目で責任感の強い職員ほど、相手の怒りを自分の責任として抱え込み、バーンアウト(燃え尽き症候群)してしまうリスクが高まっています。
SNSによる「晒し」のリスク
近年では、対応中の職員をスマートフォンで無断撮影し、実名と共にSNSに投稿するといった「デジタルタトゥー」のリスクも生じています。これが職員に与える恐怖心や萎縮効果は計り知れません。
現代における市役所の離職率は?

かつては「一度なれば一生安泰」と言われ、離職率の低さが特徴だった公務員ですが、近年その傾向は大きく変化しています。特に顕著なのが、入庁3年以内の若手職員による早期離職の増加です。
「地域のために働きたい」「政策に携わりたい」という高い志を持って入庁した若者が、現場で直面するのは終わりのない事務処理とクレーム対応、そして疲弊しきった先輩職員の姿です。この「リアリティ・ショック」により、「この組織に自分の未来はない」と見切りをつける人が増えています。
総務省などのデータを見ても、若年層の離職率は上昇カーブを描いており、民間企業への転職(公務員 to 民間)も決して珍しいキャリアではなくなりました。Z世代を中心とした「自分の成長」や「働きがい」を重視する価値観と、旧態依然とした公務員組織の体質とのミスマッチが決定的な要因となっています。
市役所が激務で辞めたい時の対処
もしあなたが現在、市役所の激務に追われ「もう辞めたい」と追い詰められているのであれば、まずはご自身の心身の健康を最優先に考えてください。責任感から無理を続けてしまう職員が多いですが、組織はあなたの健康まで責任を取ってはくれません。
具体的な対処法としては、以下のようなステップが考えられます。
- 休職制度の活用
公務員の病気休暇や休職制度は、民間企業に比べて手厚く保障されています。診断書を取得し、一度職場から離れて心身を回復させることは、決して「逃げ」ではありません。 - 異動希望の提出
部署によって業務量や雰囲気は天と地ほど違います。「今の部署が合わないだけ」という可能性もあるため、人事ヒアリングなどで切実な状況を訴え、環境を変える努力をすることも有効です。 - 転職活動の準備
「公務員しかやったことがないから」と諦める必要はありません。事務処理能力や調整力は民間でも評価されます。水面下で情報収集を始めるだけでも、精神的な逃げ道になります。
特に「辞めたい」という気持ちが強くなっている場合、自分だけで抱え込むのは危険です。早めに信頼できる人や専門家に相談することをおすすめします。
もし転職を視野に入れているのであれば、公務員からの転職に強いエージェントやサイトを確認してみるのも一つの手です。自分の市場価値を知るだけでも、心の余裕が生まれます。
構造的な要因による業務量の増加
なぜ、ここまで業務量が増え続けているのでしょうか。その根本には、「平成の大合併」と「地方分権改革」という大きな政策転換があります。
2000年代の合併推進と行財政改革(集中改革プラン)により、多くの自治体で職員定数が2割〜3割削減されました。しかし、行政区画が広くなったことで移動等のコストは増大し、さらに「国から地方へ」の権限移譲により、これまで国や県がやっていた業務が大量に市町村へ降りてきました。
非正規職員への置き換えによる弊害
定数削減の穴埋めとして会計年度任用職員(非正規職員)が増加しましたが、彼らには法的な決定権限がないため、責任の重いコア業務が少数の正規職員に集中する「漏斗(じょうご)型」の業務構造になってしまっています。
これに加え、「幼児教育・保育の無償化」や「マイナンバー制度」など、国主導の新しい制度が次々と導入されるたびに、現場はそのシステム改修や住民への周知に追われ、本来業務が圧迫される状況が続いています。
市役所の激務への対策と採用事情

激務化する現場に対し、自治体側も手をこまねいているわけではありませんが、解決への道のりは険しいのが現状です。ここでは、採用環境の変化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状など、激務を取り巻く最新の事情について解説します。
公務員で1番ホワイトなのはどこ
「激務は嫌だ、ホワイトな自治体に行きたい」と考えるのは当然のことですが、残念ながら「確実にホワイト」と言い切れる自治体や組織は存在しないと言っても過言ではありません。
なぜなら、同じ市役所内でも配属される部署や、その時の上司、係のメンバーによって環境が激変する「部署ガチャ」「上司ガチャ」の要素が非常に強いからです。
ただ、傾向として言えることはいくつかあります。
- 一部の広域連合や組合
ごみ処理や消防など特定の事務のみを行う一部事務組合などは、業務範囲が限定的であるため、比較的落ち着いている場合があります。 - 出先機関
本庁に比べて、公民館や図書館、支所などの出先機関は、突発的な事案が少なく、定時で帰りやすい傾向にあると言われています(もちろん場所によります)。
しかし、これらもあくまで傾向であり、人員削減のしわ寄せが出先機関に来ているケースもあるため、過度な期待は禁物です。
昨今の市役所の採用は難しいですか

以前は高倍率で狭き門だった市役所の採用試験ですが、近年はその難易度に変化が生じています。「市役所 は激務」といったネガティブな情報がSNS等で広まったことや、民間企業の採用意欲の向上により、地方公務員採用試験の倍率は全体的に低下傾向にあります。
特に、土木職や建築職などの技術系職種では、民間との給与格差や激務イメージから敬遠されがちで、定員割れを起こしている自治体も少なくありません。
行政職(事務職)においても、かつてのような数十倍という倍率は珍しくなり、人物重視の試験(面接重視)へとシフトすることで、受験のハードルを下げる自治体が増えています。
「試験に受かること」自体の難易度は下がっているかもしれませんが、それは「入庁後の業務遂行」が楽になったことを意味しません。むしろ、人手不足の中で採用されるため、即戦力としての期待値は高まっていると言えます。
人材流出の加速と採用倍率の低下
採用倍率の低下は、組織にとって深刻な問題を引き起こしています。応募者数が減るということは、それだけ選考の母集団が小さくなり、結果として採用される職員の質の変化(低下)を招く懸念があるからです。
基礎的な事務処理能力やストレス耐性に課題がある人材が入庁した場合、複雑化・激務化する現場の業務に適応できず、早期にメンタルヘルス不調に陥ってしまうケースがあります。
そして、その職員のフォローのために、周りの優秀な職員にさらに負荷がかかり、彼らまで潰れてしまうという「負のスパイラル」が懸念されています。
また、優秀な若手ほど「ここは長くいる場所ではない」と判断し、早期に見切りをつけて転職してしまうため、組織の中長期的な力強さが失われつつあるのが現状です。
自治体DXによる業務改革の課題

激務解消の切り札として期待されているのが「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」ですが、現場では過渡期特有の混乱も生じています。
例えば、デジタル申請を導入しても、高齢者対応や法規制のために紙の申請書を完全に廃止できず、職員が紙とデータの両方を管理・照合する「アナログとデジタルの二重行政」が発生しているケースが多々あります。
また、基幹系システムがバラバラでデータ連携がうまくいかず、結局は手作業で転記するといった非効率も残存しています。
働き方改革のパラドックス
「残業削減」の号令だけが先行し、業務量を減らす抜本的な改革が行われないまま、PCの強制シャットダウンなどが行われることがあります。その結果、早朝出勤や昼休み返上の労働、いわゆる「ジタハラ(時短ハラスメント)」が起きている職場もあります。
市役所の激務な環境を生き抜く
ここまで、市役所の激務の実態について厳しい現実をお伝えしてきました。公務員という職業は、決して「楽園」ではありませんが、地域社会にとって不可欠なやりがいのある仕事であることも事実です。
しかし、「市役所が激務」という現象は、個人の努力不足ではなく、行政システムの構造的な限界(エラー)を示しています。
もしあなたがこれから公務員を目指すのであれば、イメージだけで選ぶのではなく、志望先の離職率や議会の様子などをリサーチし、「激務であってもやりたい仕事か」を自問することが大切です。
そして現職の方は、組織の論理に埋没せず、自分のスキルを高め、適切な休養を取り、いざとなれば「逃げる」という選択肢も持っておいてください。
あなたの人生や健康よりも大切な業務はありません。この激動の時代を、賢く、したたかに生き抜いていきましょう。


