公務員のサービス残業に関する告発や相談を検討しているあなたは、終わりの見えない長時間労働や不払い残業の実態に心身ともに限界を感じているのではないでしょうか。
違法性が疑われる環境であっても、報復人事への恐怖や組織の特殊なルールに縛られ、どこに相談すればよいかわからず一人で抱え込んでいるケースも少なくありません。
この記事では、公務員特有の法規制の迷宮を紐解きながら、安全に現状を変えるための具体的な知識を提供します。
- 公務員のサービス残業が違法となる法的根拠と責任の所在
- 労働基準監督署や人事委員会などの相談先の選び方と注意点
- 未払い残業代請求で決定的な証拠となるログの集め方
- 弁護士を活用してリスクを抑えつつ問題を解決する具体的な手順
公務員のサービス残業を告発する前の基礎知識

いざ行動を起こそうと思っても、公務員の世界には「予算」や「法律」という特殊な壁が存在します。まずは敵を知ることから始めましょう。ここでは、なぜ公務員の残業代が支払われないのか、その構造的なカラクリと、私たちが持っている本来の権利について整理していきます。
公務員はサービス残業が当たり前ですか?
結論から言うと、残念ながら多くの現場で「当たり前」としてまかり通ってしまっているのが現状です。「全体の奉仕者」という言葉が独り歩きし、予算定額主義を理由に、正規の勤務時間を超えた労働が「自発的な在庁」として処理されるケースが後を絶ちません。
特に、国や地方自治体では年度ごとの人件費予算が厳格に決まっているため、年度途中で予算が尽きると「これ以上は超過勤務命令を出せない」と上司から通告されることがあります。
しかし、目の前の業務量が減るわけではありません。その結果、命令がないまま業務を続けざるを得ない「サービス残業(不払い残業)」が常態化してしまうのです。
かつて国の予算における超過勤務手当の不用額(使い残し)がほぼゼロだったことは、予算枠に合わせて支給を打ち切っていた証拠とも言われています。しかし近年は政府もその存在を認め、是正勧告などの改善の動きも見え始めています。
公務員のサービス残業は違法である法的根拠

「公務員だから労働基準法は関係ない」と思わされている人もいるかもしれませんが、それは大きな誤解です。確かに公務員(特に一般職)は労働基準法の適用が一部除外されていますが、だからといって無賃労働が許容されているわけではありません。
地方公務員法や国家公務員法、そして給与条例において、正規の勤務時間を超えて働いた場合には、その対価として超過勤務手当を支払うことが義務付けられています。
「命令していないから払わない」という理屈も、近年の裁判例では通用しなくなってきました。上司が残業の事実を知りながら黙認していた場合、「黙示の超過勤務命令」があったとみなされ、違法性が認定されるケースが増えています。
サービス残業は誰が罰せられるのか?責任の所在
民間企業であれば、労働基準法違反で経営者が書類送検されることがありますが、公務員の場合は少し事情が異なります。仮にサービス残業が発覚しても、直属の上司や任命権者が直ちに刑事罰を受けることは稀です。
しかし、2022年の公益通報者保護法改正により、状況は変わりつつあります。同法における「刑事罰」は主に守秘義務違反(通報者探しの漏洩)に対するものですが、通報を理由とした不利益な取り扱い(報復人事)は法律上「無効」となります。
さらに、違法行為を放置した管理職は、地方公務員法に基づく懲戒処分の対象となり得ます。組織としてのコンプライアンス違反が公になれば、首長や幹部の管理責任が厳しく問われることは間違いありません。
予算の壁と超過勤務命令抑制のメカニズム

私たち現場の職員を苦しめる最大の要因、それが「予算の壁」です。自治体の会計は「予算定額主義」が原則であり、どんなに忙しくても、あらかじめ議会で承認された予算を超えて手当を支給することは、原則としてできません。
この仕組みがある限り、管理職は「予算内で収めること」を最優先事項として行動します。その結果、「仕事は終わらせろ、でも残業はつけるな」という矛盾した指示、いわゆる「時短ハラスメント」に近い状況が生まれます。これは個人の能力の問題ではなく、構造的な欠陥と言えるでしょう。
「予算がない」は行政側の都合であり、労働の対価を払わない正当な理由にはなりません。働いた分の賃金請求権は、予算の有無にかかわらず法的に発生します。
公務員によるサービス残業拒否の法的権利と現実
法的には、正規の勤務時間を超える業務命令(超過勤務命令)には、一定の要件が必要です。また、健康を害するような過重労働を拒否することは、安全配慮義務の観点からも正当な権利と言えます。
しかし、現実には「拒否したら評価が下がる」「周りに迷惑がかかる」という同調圧力により、声を上げにくいのが実情です。特に警察や消防など団結権が制限されている職種や、教員の「給特法(定額働かせ放題)」の問題など、職種ごとに異なるハードルが存在します。
それでも、無理をして体を壊してしまっては元も子もありません。自分の身を守るためにも、まずは「記録を残す」という静かな抵抗から始めることが重要です。
公務員がサービス残業を告発し解決する具体的手段

精神論で状況が変わることはありません。現状を変えるには、客観的な証拠を集め、適切なルートで声を上げる必要があります。ここでは、具体的な相談先や証拠の集め方、そして弁護士を活用した請求実務について、実践的なステップを解説します。
サービス残業をどこに相談すればよいですか?
相談先を選ぶ際は、自分の職種(一般行政職、現業職、教員など)によって適切な窓口が異なることに注意が必要です。間違った場所に相談しても、「管轄外です」と門前払いされてしまう可能性があります。
- 現業職員(給食、用務、公営企業等)
労働基準監督署が管轄です。是正勧告などの強い権限が期待できます。 - 非現業職員(一般的な役所仕事)
原則として人事委員会や公平委員会が窓口です。労基署に相談しても指導権限がありません。 - 教職員
各都道府県の人事委員会や教育委員会が窓口となります。
労働基準監督署と人事委員会の管轄と限界
多くの公務員にとっての最初の落とし穴がここです。「労基署に行けばなんとかなる」と思っていると、痛い目を見ます。一般的な行政職の公務員に対して、労働基準監督署は法的な指導権限を持っていません。
相談には乗ってくれますが、あくまで「情報提供」扱いとなり、具体的な是正措置には繋がりにくいのが現実です。
一方、人事委員会による『措置要求』という制度がありますが、これは身内による監査に近い側面があり、実務上、是正が認められるケースは多くないのが現実です。
人事委員会への措置要求は「宣戦布告」と受け取られることもあります。組織に残りながら戦う場合は、相当な覚悟と準備が必要です。
証拠保全に不可欠なPCログと客観的資料
いざ未払い残業代を請求したり、告発したりする際に、最も重要になるのが「証拠」です。「毎日遅くまで残っていました」という証言だけでは、相手にされません。裁判でも通用する、客観的な記録を在職中に確保しておく必要があります。
| 証拠の種類 | 重要度・特徴 |
| PC画面の写真撮影 | 最も確実。毎日、始業・終業時に日時が表示された画面をスマホで撮影します。ログ取得が困難な官公庁PCで最強の自衛策です。 |
| 交通系ICカード履歴 | 入退館時刻や通勤の記録として有効。件数(通常20件程度)に限りがあるので、券売機でこまめに印字してください。 |
| 送信メール履歴 | 深夜や休日に業務を行っていた事実を補強します。自分宛のBCC送信や、下書き保存の日時も有効な状況証拠となります。 |
| 手書きの日記・メモ | 毎日継続していれば信用性が高まります。業務内容も「何時まで何の書類作成」と具体的に記載しましょう。 |
多くの自治体PCではセキュリティ制限により、ログ(イベントビューアー等)へのアクセスがブロックされています。無理にアクセスを試みると不正操作とみなされる危険があるため、画面撮影など「外部からの記録」を徹底してください。
弁護士による未払い残業代請求と示談交渉

個人の力で組織と戦うのは限界があります。そこで最強のパートナーとなるのが弁護士です。特に「退職時」や「退職後」であれば、報復人事を恐れる必要がないため、弁護士を通じて未払い残業代を請求する人が増えています。
弁護士名義で内容証明郵便が届くと、自治体の法務担当者は訴訟リスクを避けるために態度を軟化させることがあります。実際に裁判まで行かずとも、交渉(示談)で解決金が支払われるケースも少なくありません。
費用はかかりますが、回収できた金額から支払う「成功報酬型」の事務所を選べば、初期費用のリスクを抑えることも可能です。
請求権の時効は残業代を含む賃金請求権として原則「3年」であり、早めの相談が有利です。
公務員のサービス残業を告発し環境を変える(まとめ)
最後に、組織の不正を正すための「公益通報(内部告発)」について触れておきます。2022年の法改正で、通報者保護は強化されました。特に、役所内部の窓口ではなく、外部の報道機関や弁護士を通じた通報(第2号・第3号通報)は、組織の自浄作用が期待できない場合に有効です。
ただし、昨今の事例を見てもわかるように、組織トップが関与する場合、内部での通報は握りつぶされたり、犯人捜しが行われたりするリスクが依然としてあります。本気で告発を考えるなら、匿名性を担保できる弁護士経由での通報や、メディアへの情報提供を慎重に検討すべきでしょう。
「公務員だから我慢する」時代は終わりました。あなたの健康と人生を守るために、正しい知識と戦略を持って行動してください。その一歩が、あなた自身だけでなく、後に続く後輩たちの労働環境を変えるきっかけになるかもしれません。


