【政治家】定年制度のデメリットとは?年齢制限が招くリスクを解説

【政治家】定年制度のデメリットとは?年齢制限が招くリスクを解説

最近、ニュースやSNSで「政治家にも定年制を導入すべきだ」という意見をよく目にしますね。確かに一般企業では当たり前の定年が、なぜ国を動かす政治家にはないのか、不思議に思う気持ちはよくわかります。

しかし、「若返り=善」という単純な図式だけで片付けてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。実は、政治の世界における年齢制限には、私たちの生活や国の利益を損なう深刻なデメリットが潜んでいるのです。

この記事では、元地方公務員である私が、一見良さそうに見える定年制の裏側に隠されたリスクについて、わかりやすく解説していきます。

  • 政治家の定年制が憲法や民主主義に与える影響
  • ベテラン議員の排除が招く外交や危機管理のリスク
  • 意外と知られていない世襲政治との密接な関係
  • 各国の事例や政治家のお金に関するリアルな実情
目次

政治家の定年制導入によるデメリットとは

政治家の定年制導入によるデメリットとは

「おじいちゃん政治家ばかりで、若者の声が届かない!」そんな不満から、定年制の導入を求める声は根強くあります。

しかし、制度として一律に年齢で区切ってしまうことには、私たちが想像する以上に多くの副作用が存在します。ここでは、政治家に定年制を導入することで生じる具体的なデメリットについて、5つの視点から深掘りしていきましょう。

憲法違反となる被選挙権の侵害の可能性

まず、最も根本的な問題として挙げられるのが、憲法との兼ね合いです。私たち日本国民は、法の下に平等であり、不当な差別を受けない権利を持っています。

政治家になりたいという「被選挙権」も、国民の重要な権利の一つです。一般企業の定年制は、肉体的な労働能力の低下や組織の新陳代謝といった経済的な理由で認められていますが、政治家の能力は少し違いますよね。判断力や調整力といった知的・人格的な資質は、年齢を重ねることでむしろ磨かれる場合もあります。

特定の年齢に達したという理由だけで、個人の能力を審査せずに立候補の権利を奪うことは、憲法第14条の「法の下の平等」に反する可能性が高いという指摘があります。

「もう年だからダメ」と一律に切り捨てることは、個人の尊厳を無視した乱暴な制度設計になりかねないのです。

有権者の選択肢を狭める参政権への弊害

有権者の選択肢を狭める参政権への弊害

定年制のデメリットは、立候補する政治家側だけの問題ではありません。実は、私たち有権者にとっても「投票したい人に投票できない」という事態を招くことになります。

例えば、あなたの地元に80歳の実績ある政治家がいて、地域住民の多くが「この人にまたお願いしたい」と願っていたとします。

しかし、政党の定年ルールでその人が立候補できなくなってしまったらどうでしょう?代わりに経験の浅い新人が出てきたとしても、それは有権者が本当に選びたかった選択肢ではありませんよね。

憲法第15条では、公務員を選ぶことは「国民固有の権利」とされています。政党の都合による定年制が、実質的に有権者の選択権(参政権)を制限してしまうことは、民主主義の理念から見ても大きな問題と言えるでしょう。

外交や危機管理における国益の損失

政治の世界、特に外交においては「経験」と「人脈」がモノを言います。各国の首脳と長年かけて築いてきた信頼関係や、修羅場をくぐり抜けてきた経験値は、一朝一夕に作れるものではありません。

もし定年制でベテラン議員を一掃してしまったら、どうなるでしょうか。

ここがリスク!

  • 海外要人と太いパイプを持つ「重鎮」がいなくなり、外交交渉力が低下する。
  • 官僚をコントロールできる知識を持った政治家が減り、「官僚主導」に逆戻りする可能性がある。
  • 過去の災害や金融危機を知る世代がいなくなり、緊急時の判断を誤るリスクが高まる。

「賢者は歴史に学ぶ」と言いますが、過去の失敗や成功を肌感覚で知っている政治家の存在は、国の危機管理において非常に重要な「安全装置」の役割を果たしているのです。

世襲政治を加速させる逆説的な結果

世襲政治を加速させる逆説的な結果

「定年制にすれば新陳代謝が進んで、新しい人が政治家になれるはず!」と思いきや、実は逆の結果を招くこともあります。それが「世襲政治の加速」です。

定年という明確な「引退のタイムリミット」が決まっていると、議員は何年も前から計画的に準備をすることができます。自分の息子や娘を秘書にして地盤を引き継がせたり、後援会組織をそのまま譲ったりすることが容易になるんですね。

突然の解散や病気での引退とは違い、定年制は「いつ辞めるか」が予測できるため、世襲の準備期間を与えてしまう皮肉な側面があります。

結果として、新人が入る隙間はなくなり、特定の家系による政治支配が固定化されてしまう恐れがあります。これでは、本来期待していた「多様な人材の確保」とは真逆の方向に向かってしまいます。

エイジズムを助長する社会的影響への懸念

最後に、社会心理学的な視点からのデメリットです。国会という最高機関が「高齢者は不要」というメッセージを発信することは、社会全体に「エイジズム(年齢差別)」を広めることにつながりかねません。

「老害」という言葉で高齢者の存在を一括りに否定する風潮が強まれば、企業や地域社会でも高齢者の排除が正当化されてしまうかもしれません。人生100年時代と言われる中で、経験豊かな高齢者の知恵を活かすどころか、逆に分断を煽ってしまうのはあまりに短絡的です。

政治家に求められるのは、瞬発力などの「流動性知能」よりも、経験に基づく「結晶性知能」だと言われています。年齢という数字だけで能力を判断することは、社会の貴重な資源を捨てることと同じではないでしょうか。

政治家の定年制とデメリット|データから分析

政治家の定年制とデメリット|データから分析

ここまで定年制の構造的なデメリットを見てきましたが、ここからは実際のデータや各党の運用状況、そして気になる「お金」の話にも触れていきたいと思います。理想論だけでなく、現実がどうなっているのかを知ることも大切です。

日本の政党における政治家の定年退職年齢は?

現在、法律で定められた政治家の定年はありませんが、各政党が独自にルールを設けているケースがあります。特に有名なのが自由民主党の「73歳定年制」ですね。

政党定年制の主な内容(運用実態含む)
自由民主党比例代表候補者は原則73歳未満とする(小選挙区での立候補は妨げない)。ただし、例外や特例が適用されることもあり、運用は恣意的との批判も。
公明党かつては「在任中に69歳を超える場合は公認しない(66歳定年)」という内規があったが、近年は特例で延長するケースが増加。
日本維新の会改革を掲げるものの、他党からのベテラン受け入れなどで一律の制限は難しくなっているのが現状。

自民党のルールも、あくまで「比例代表」の話であり、選挙に強い大物議員は小選挙区から立候補し続けるため、実質的には抜け道だらけと言われています。

また、時の権力者が政敵を排除するためにこのルールを利用することもあり、「党内政治の道具」になっている側面も否めません。

現在の国会議員で80歳以上は何人いるのか

現在の国会議員で80歳以上は何人いるのか

では、実際に日本の国会はどれくらい高齢化しているのでしょうか。皆さんがイメージするほど「80代だらけ」なのでしょうか。

実は、現在の国会議員で80歳以上の人数は、全体から見ればごくわずかです。2025年時点の状況を考えると、麻生太郎氏や小沢一郎氏といった超ベテランの名前が浮かびますが、数名程度にとどまります。

かつて最高齢として知られた二階俊博氏などが引退を表明したことで、平均年齢自体はそこまで極端に高いわけではありません。

ただ、人数は少なくても彼らの持つ発言力や影響力(いわゆる「重鎮」としてのパワー)が絶大であるため、「政治=老人支配」というイメージが強く残っているのかもしれませんね。

政治家の定年に関する海外の事例と実情

「日本は遅れている!海外ではもっと若いリーダーが活躍しているはずだ!」と思うかもしれません。確かにフィンランドのマリン元首相など30代のリーダーもいますが、世界全体で見ると、必ずしも定年制がスタンダードというわけではないのです。​

  • アメリカ
    大統領や連邦議員に定年はありません。トランプ大統領のように80代で現役のリーダーも珍しくありません。「能力があれば年齢は関係ない」という実力主義が徹底されています。​
  • イギリス
    下院に定年はなく、上院(貴族院)に至っては終身制が基本です。「経験豊富な長老の知恵は国の財産」という考え方が根付いています。​
  • 中国
    逆に定年制(のようなもの)が厳しいのが中国共産党。「七上八下(67歳は留任、68歳は引退)」という不文律がありましたが、習近平国家主席がこれを破って長期政権を敷いたことは記憶に新しいですね。​

民主主義国ほど「年齢で一律排除」はせず、選挙による審判に委ねる傾向があります。逆に権威主義的な国ほど、権力闘争のルールとして定年を利用することがある点は興味深いですね。

引退時に支払われる政治家の退職金はいくらですか?

引退時に支払われる政治家の退職金はいくらですか?

公務員の退職金については私も詳しいですが、政治家の「退職金」については誤解している方も多いのではないでしょうか。「政治家なら、辞める時にガッポリ退職金をもらうんだろう」と思っていませんか?

実は、現在の国会議員に「退職金」という制度はありません。

かつては「国会議員互助年金」という制度がありましたが、批判を受けて2006年に廃止されました。ですので、今は定年(引退)したからといって、退職金が振り込まれるわけではないのです。

注意点

ただし、在職中に支払われる「期末手当(ボーナス)」や、旧制度時代の年金受給資格を持っている元議員などは別の話になります。また、地方議員についても自治体によって制度が異なりますが、基本的には退職金制度は廃止されているところが多いです。

「お金目当てで居座っている」という批判もたまに聞きますが、制度上は長く続けても退職金が増えるわけではない、ということは知っておいて損はない事実です。

政治家の定年制導入のデメリットと今後の課題

ここまで見てきたように、政治家に定年制を導入することには、憲法上の問題、外交力の低下、世襲の固定化など、多くの構造的なデメリットが存在します。単に「高齢者を排除すれば政治が良くなる」というほど単純な話ではありません。

もちろん、いつまでも権力の座にしがみつくことは問題ですが、それを解決する手段は「年齢制限」という乱暴な線引きではないはずです。

私たち有権者が、年齢という数字やイメージに惑わされず、「その人が何をしてきたか」「これから何ができるか」を厳しくチェックし、選挙で審判を下すこと。それこそが、遠回りのようでいて、最も確実な「政治の新陳代謝」なのかもしれませんね。

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