入籍という人生の大きな節目に用意する婚姻届。しかし、その「父母の氏名」欄を前に、ペンが止まってしまう方は少なくありません。親との関係が良好でない、あるいは様々な家庭の事情から「親の名前を書きたくない」と感じるのは、決して珍しいことではないのです。
例えば、親と絶縁状態にあったり、親が離婚していたりする場合、どのように書けば良いのか迷うことでしょう。
また、そもそも婚姻届の親の名前は自分で書くものなのか、証人は片方の両親だけでも良いのか、そして婚姻届はなぜ2枚必要なのか、といった基本的な疑問も浮かび上がります。こうした不安や戸惑いは、手続き上の失敗や後悔につながりかねません。
この記事では、そんなあなたの悩みに寄り添い、法的なルールから具体的な書き方、そして精神的な負担を和らげるための考え方まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。
- 婚姻届の父母欄の基本ルールと正しい書き方
- 親と絶縁・離婚している場合の具体的な対処法
- 証人選びや婚姻届の枚数など関連する疑問の答え
- 親の名前を書くことへの精神的な負担を和らげる考え方
婚姻届で親の名前書きたくない|基本ルールと手続き

- 婚姻届の親の名前は誰が書く?基本ルール
- 親の名前を自分で書く時の注意点と正しい書き方
- 父母の欄を空欄で提出したらどうなる?
- 証人は片方の両親だけでもOK?頼める人の条件
- なぜ婚姻届は2枚必要?提出後の流れを解説
婚姻届の親の名前は誰が書く?基本ルール

婚姻届の「父母の氏名」欄は、結婚する当事者、つまり届出人本人が記入するのが基本ルールです。多くの方が「親自身の署名が必要なのでは?」と誤解しがちですが、この欄は署名欄ではありません。
なぜなら、この欄の目的は、戸籍を作成する上で親子関係を明確にするための「事実の記載」だからです。親の同意を示すものではないため、親に書いてもらう必要は一切ありません。
これと混同されやすいのが「証人」欄です。証人欄は、成人2名が結婚の事実を証明するために、自ら署名・押印する必要があります。しかし、「父母の氏名」欄は、あくまで戸籍情報の一つとして、あなたがご自身の親の名前を正確に記入すれば良いのです。
以上のことから、親に連絡を取ったり、署名を依頼したりする必要はなく、届出人本人が責任を持って記入する欄だと理解しておきましょう。
親の名前を自分で書く時の注意点と正しい書き方
親の名前を自分で書く際に最も大切なのは、戸籍謄本に記載されている通り、一字一句正確に記入することです。もし内容に誤りがあると、婚姻届が受理されなかったり、訂正を求められたりする可能性があります。
戸籍謄本との完全な一致
例えば、戸籍上の表記が「二男」であるにもかかわらず「次男」と書いたり、旧字体(例:「髙」「﨑」)を新字体で書いてしまったりすると、不備と見なされる場合があります。現在の親の氏名や漢字表記に少しでも不安があれば、事前に戸籍謄本を取得して確認しながら書くのが確実です。
書き間違えた場合の訂正方法
万が一書き間違えてしまった場合は、修正液や修正テープは使用できません。間違えた箇所に二重線を引き、その近くの余白に正しい内容を記入します。そして、二重線の上か横に、届出人欄で使用した印鑑と同じものを押印(訂正印)してください。
このように、手続きをスムーズに進めるためには、事前の準備と丁寧な記入が鍵となります。
父母の欄を空欄で提出したらどうなる?

原則として、父母の氏名欄を空欄にした婚姻届は、役所の窓口で受理されません。個人的な事情から「書きたくない」と感じていても、空欄のまま提出することは避けるべきです。
この欄は戸籍法で定められた記載事項であり、空欄は「書類の不備」として扱われます。そのため、窓口で職員から記入するように指示され、その場で書き直すことになるのが一般的です。
ただし、例外もあります。例えば、母親が父親から認知を受けておらず、戸籍謄本の父の欄がもともと空欄になっているケースです。このような場合は、戸籍の事実に従って、婚姻届の父の欄も空欄のまま提出して問題ありません。
もし、どうしても書けない特別な事情がある場合は、空欄で提出しようとせず、必ず事前に役所の窓口で相談してください。事情によっては、職員が戸籍を確認して追記するなどの対応をしてくれる可能性もあります。
証人は片方の両親だけでもOK?頼める人の条件

婚姻届の証人は、片方の両親だけでも全く問題ありません。新郎側と新婦側から一人ずつ選ばなければならない、といったルールは存在しないのです。
証人になれる人の条件は、非常にシンプルです。
- 18歳以上の成人であること
- 結婚する二人に結婚の意思があることを知っていること
- 当事者(新郎新婦)以外であること
この条件さえ満たしていれば、両親はもちろん、兄弟姉妹、祖父母、友人、職場の上司など、誰にでもお願いできます。例えば、「新婦側の父と母」の2名や、「新郎の兄と友人」といった組み合わせでも問題なく受理されます。
また、証人になることで法的な責任や義務が生じることは一切ありません。あくまで二人の結婚の意思を証明する役割ですので、安心して信頼できる方にお願いしましょう。
なぜ婚姻届は2枚必要?提出後の流れを解説

役所で婚姻届をもらうと2枚セットになっていることが多く、「なぜ2枚必要なのか」と疑問に思うかもしれません。これは、1枚が「役所への提出用」、もう1枚が「記念用の手元控え」となっているためです。
法律上、婚姻を成立させるために必要なのは「提出用」の1枚だけです。しかし、人生の大切な節目を形として残したいというニーズに応え、多くの自治体や企業が記念用の婚姻届を用意しています。複写式になっていて、記入すると自動的に控えができるタイプも便利です。
提出後の流れ
婚姻届が役所で受理されると、その時点で法律上の夫婦となります。その後、新しい戸籍が作られますが、これには通常7日から10日ほどの時間がかかります。本籍地以外の役所に提出した場合は、書類の郵送手続きがあるため、もう少し時間がかかることもあります。
新しい戸籍が完成すれば、運転免許証や銀行口座、パスポートなどの名義変更手続きを進めることができるようになります。
婚姻届で親の名前書きたくない|複雑な事情の解決策

- 親が離婚している場合の父母欄はどう書く?
- 親と絶縁…名前は書く?精神的負担への対処法
- 養父母がいる場合の父母欄の書き方
- 未成年者の婚姻で親の同意が必要なケース
- 婚姻届で親の名前書きたくない悩みの対処(まとめ)
親が離婚している場合の父母欄はどう書く?

親が離婚している、あるいは再婚している場合の父母欄の書き方は、多くの方が迷うポイントです。結論から言うと、婚姻届を提出する時点での、実の父母それぞれの「現在の氏名」をフルネームで記入します。
結婚していた当時の姓ではなく、あくまで「今」の氏名を書くのがルールです。例えば、離婚後に母親が旧姓に戻っていればその旧姓を、再婚して新しい姓になっていればその姓を記入してください。どちらの親が亡くなっている場合でも、空欄にはせず、亡くなった時点での氏名を書く必要があります。
具体的な書き方は以下の表を参考にしてください。
ケース | 父欄の記入例 | 母欄の記入例 | 注意点 |
両親が婚姻中 | 山田 太郎 | 山田 花子 | 母は名のみ(花子)でも可 |
両親が離婚(母が旧姓に) | 山田 太郎 | 佐藤 花子 | 父母それぞれの現在の氏名をフルネームで記入 |
両親が離婚(母が再婚) | 山田 太郎 | 鈴木 花子 | 再婚後の新しい氏名を記入 |
父または母が死亡 | 山田 太郎 | 山田 花子 | 亡くなっていても空欄にせず、氏名を記入 |
このように、父母の状況によって書き方が異なります。不明な点がある場合は、自己判断で記入せず、戸籍謄本で正確な情報を確認することが大切です。
親と絶縁…名前は書く?精神的負担への対処法

親と絶縁状態にある方にとって、婚姻届に親の名前を書くことは大きな精神的苦痛を伴うかもしれません。しかし、たとえ絶縁していても、法律上の親子関係が消えるわけではないため、婚姻届には親の名前を記入する必要があります。
これは、絶縁があくまで当事者間の私的な関係の断絶であり、戸籍法で定められた記載義務はなくならないからです。この事実を知っておくことは大切ですが、同時にご自身の心の負担を和らげる考え方を取り入れることもできます。
まず、この記入は「親を認める行為」や「親に屈する行為」ではなく、あくまで「社会的な手続きの一部」と割り切ってみましょう。あなた自身の新しい戸籍を作るための、機械的な作業だと捉えるのです。
また、書いたからといって、役所から親に「お子さんが結婚しました」といった連絡が自動的に行くことはありません。この点も、少しは安心材料になるのではないでしょうか。どうしても辛い場合は、信頼できるパートナーや友人に気持ちを打ち明けるだけでも、心が少し軽くなるかもしれません。
養父母がいる場合の父母欄の書き方

養父母がいる場合の婚姻届の書き方は、「普通養子縁組」か「特別養子縁組」かによって異なります。ご自身のケースがどちらに該当するかを正しく理解しておく必要があります。
普通養子縁組の場合
普通養子縁組は、実の親との法的な親子関係を維持したまま、養親とも親子関係を結ぶ制度です。この場合、婚姻届の「父母の氏名」欄には、血縁のある実の父母の氏名を記入します。そして、養父母の氏名は「その他」の欄に記入するのが一般的です。
特別養子縁組の場合
一方、特別養子縁組は、実の親との法的な親子関係を解消し、養親と実の子と同じ親子関係を結ぶ制度です。この場合は、戸籍上も養父母が唯一の親となります。したがって、「父母の氏名」欄には、養父母の氏名を記入してください。
養子縁組の種類によって記載方法が全く違うため、もし不明な点があれば、必ず事前に役所の窓口や戸籍謄本で確認しましょう。
未成年者の婚姻で親の同意が必要なケース

現在の日本の法律では、男女ともに18歳から結婚することができます。したがって、18歳以上であれば、婚姻にあたって親の同意は必要ありません。
これは、2022年4月1日に民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴う変更です。この改正により、婚姻できる年齢も男女ともに18歳に統一され、成人が結婚する際には親の同意が不要となりました。
そのため、「父母の氏名」欄を記入することと、「親の同意を得ること」は全く別の問題です。親の名前を書くのは、あくまで戸籍上の事実を記載するためであり、結婚の許可を得るための手続きではありません。
以上のことから、あなたが18歳以上であれば、親の同意を心配する必要はなく、ご自身の意思で婚姻届を提出することができます。
婚姻届で親の名前書きたくない悩みの対処(まとめ)
この記事で解説した「婚姻届で親の名前を書きたくない」という悩みに関する重要なポイントを以下にまとめます。
- 父母の氏名欄は親の署名ではなく届出人本人が書く
- 記入するのは戸籍上の事実であり親の同意とは無関係
- 親の名前は戸籍謄本通りに一字一句正確に記入する
- 書き間違えたら修正液は使わず二重線と訂正印で対応
- 父母の欄を空欄で出すと原則として受理されない
- 戸籍上、父がいない場合などは例外的に空欄で良い
- 証人は18歳以上の成人2名なら誰でもよく組み合わせは自由
- 片方の両親だけでも友人2名だけでも証人になれる
- 婚姻届が2枚あるのは提出用と記念用の控えのため
- 親が離婚・再婚している場合は現在の氏名を書く
- 親が亡くなっていても空欄にはせず氏名を記入する
- 親と絶縁していても法律上は名前を書く義務がある
- 名前を書くのは手続きと割り切り精神的負担を軽くする工夫を
- 養子縁組の場合は普通か特別かによって書き方が異なる
- 18歳以上であれば結婚に親の同意は一切不要
- 不安な点は戸籍謄本を取得して確認するのが最も確実
