年金暮らしが始まると、住居費、特に家賃をいかに抑えるかが生活の安定に直結します。多くの方が老後の住まいとして市営住宅のような公営住宅を考えますが、具体的な入居条件や家賃の仕組みについては、意外と知られていないことが多いのではないでしょうか。
特に、高齢者や単身世帯の市営住宅における家賃、また非課税世帯の場合の扱いは気になるところです。万が一、年金暮らしで家賃が払えない状況になったらどうすればよいのか、年金生活で利用できる家賃補助はあるのかなど、不安は尽きません。
この記事では、そのような疑問や不安を解消するため、市営住宅と年金暮らしに関する情報を網羅的に解説します。
- 市営住宅の具体的な入居資格や家賃の計算方法
- ご自身の年金収入に応じたおおよその家賃目安
- 家賃の支払いが困難になった際の公的な支援制度
- 公営住宅で暮らす上でのメリットと注意すべき点
市営住宅での年金暮らし|家賃と入居の基本知識

- 年金暮らしでも市営住宅に入居できますか?
- そもそも年金だけでは生活できない理由は何ですか?
- 市営住宅の家賃はどう決まる?収入に応じた計算方法
- 【ケース別】年金額から見る市営住宅の家賃目安
- 入居後に収入が変動すると家賃も変わる?
年金暮らしでも市営住宅に入居できますか?

年金による収入しかなくても、市営住宅への入居は可能です。むしろ、多くの自治体では高齢者世帯に対して入居の優遇措置を設けており、年金受給者も申込対象として広く認められています。
公営住宅の申し込みにおいて、年金は給与などと同じく「収入」として扱われます。しかし、年金収入のみの高齢者世帯でも、定められた収入基準の範囲内であれば問題なく申し込むことができます。年齢や障がいの有無を理由に入居を断られることはありません。
主な入居資格
市営住宅に入居するためには、いくつかの基本的な資格要件を満たす必要があります。自治体によって細かな違いはありますが、概ね以下の点が共通しています。
- 住宅に困窮していること
持ち家がなく、現在住んでいる場所に困っていることが前提です。 - 親族との同居または独立生計
原則として家族と暮らしていることが求められますが、後述する単身者向けの条件もあります。 - 税金等の滞納がないこと
住民税や国民健康保険料などを滞納していないことが条件です。 - 暴力団員ではないこと
申込者および同居者が暴力団員でないことが求められます。 - 収入が基準以下であること
世帯の合計所得が、定められた基準額を下回っている必要があります。
高齢者の収入基準と単身入居
年金暮らしの方に最も関係が深いのが収入基準です。高齢者世帯は一般世帯よりも基準が緩和されています。
- 一般世帯: 月収15万8千円以下
- 高齢者世帯(60歳以上の方のみで構成される世帯など): 月収21万4千円以下
また、通常は親族との同居が必要ですが、60歳以上の高齢者や身体に障がいがある方などは、単身での入居が認められています。年金で暮らす多くの方が市営住宅の入居資格を満たすと考えられます。
そもそも年金だけでは生活できない理由は何ですか?

「年金だけでは生活できない」という声をよく耳にしますが、これにはいくつかの構造的な理由が存在します。受け取る年金の額面が、そのまま手取り額にならない点が大きな要因です。
年金も所得の一種と見なされるため、税金や社会保険料が差し引かれます。具体的には、所得税、住民税、そして介護保険料や後期高齢者医療保険料などが年金から天引きされる仕組みになっています。そのため、支給額から数千円から数万円が引かれた金額が、実際に生活費として使えるお金となるのです。
また、近年の物価上昇も年金生活を圧迫する一因です。食料品や光熱費といった生活必需品の価格が上がっても、年金額がすぐにそれに連動して増えるわけではありません。
結果として、実質的な収入が目減りし、家計が厳しくなることがあります。総務省の家計調査でも、高齢者世帯の平均的な支出が年金収入を上回り、貯蓄を取り崩して生活している状況が示されています。
市営住宅の家賃はどう決まる?収入に応じた計算方法

市営住宅の家賃は、民間賃貸住宅のように物件の条件だけで決まるわけではありません。入居する世帯の支払い能力に応じて公平に負担できるよう、「世帯全員の所得」と「物件の条件」の2つの要素を基に、法律で定められた計算式で算出されます。
この計算の基礎となるのが「政令月収」と呼ばれる、世帯の年間総所得から各種控除(扶養控除など)を差し引いて月額に換算した金額です。この政令月収が低いほど、家賃も安くなる仕組みになっています。
具体的には、政令月収をいくつかの階層に分け、それぞれに「家賃算定基礎額」という基準額を設定します。その上で、物件の立地や広さ、築年数などに応じた係数を掛け合わせて、最終的な家賃が決定します。
収入区分 | 政令月収(月額) | 家賃算定基礎額(例) |
区分1 | 104,000円以下 | 34,400円 |
区分2 | 104,001円~123,000円 | 39,700円 |
区分3 | 123,001円~139,000円 | 45,400円 |
区分4 | 139,001円~158,000円 | 51,200円 |
例えば、政令月収が10万円の世帯は区分1に該当し、これを基に家賃が計算されます。特に住民税が非課税となる世帯は、この最も低い区分が適用されることが多く、家賃負担が大きく軽減されます。
【ケース別】年金額から見る市営住宅の家賃目安

では、具体的にご自身の年金額だと市営住宅の家賃はいくらくらいになるのでしょうか。ここでは、いくつかのケースを基にした家賃の目安をシミュレーションします。
実際の家賃は、お住まいの地域や物件の条件によって変動しますが、大まかなイメージを掴む参考にしてください。
計算の前提
- 計算を簡略化するため、各種係数(立地、規模など)を総合的に「0.4~0.7」程度と仮定します。これは、都心部から郊外までを幅広く想定した係数です。
- 年金収入から一定の控除を引いた額を「政令月収」として計算します。
ケース | 世帯構成 | 年金月収(額面) | 政令月収(概算) | 家賃算定基礎額 | 家賃目安(月額) |
① | 単身 | 10万円 | 約8.3万円 | 34,400円 | 約1.3万円~2.4万円 |
② | 単身 | 14万円 | 約12.3万円 | 39,700円 | 約1.5万円~2.7万円 |
③ | 夫婦 | 合計18万円 | 約13.3万円 | 45,400円 | 約1.8万円~3.1万円 |
④ | 夫婦 | 合計22万円 | 約16.6万円 | 58,500円 | 約2.3万円~4.0万円 |
年金収入が比較的低い場合は、多くのケースで家賃が1万円台から3万円台の範囲に収まることが分かります。一般的な民間賃貸住宅の家賃と比較すると、経済的な負担が大幅に軽減されると言えるでしょう。
入居後に収入が変動すると家賃も変わる?

市営住宅の家賃は固定ではなく、入居者の収入状況に応じて毎年見直されます。入居者は年に一度、世帯全員の収入を申告する義務があり、その申告内容に基づいて翌年度の家賃が再計算される仕組みです。
例えば、働き続けていた方が仕事を辞めて年金収入のみになった場合、収入申告をすることで翌年からの家賃は下がります。逆に、同居する家族が就職して世帯収入が増えた場合には、家賃が上がる場合もあります。
この制度は、常にその時点での支払い能力に応じた家賃負担となるように設計されているため、収入が減ってしまった場合でも安心して住み続けられるという大きな利点があります。
ただし、この収入申告を怠ってしまうと、ペナルティとして近隣の民間賃貸住宅と同程度の高い家賃(近傍同種家賃)が請求される場合があるため、注意が必要です。毎年必ず定められた期間内に手続きを行うことが大切です。
市営住宅の家賃負担を減らし年金暮らしを守る方法

- 高齢者や単身世帯向け!市営住宅の家賃減免制度
- 年金生活の負担を軽くする国の家賃補助とは?
- 年金暮らしで家賃が払えない…滞納する前の相談先
- 老後の住まいとしての公営住宅、そのメリットと注意点
- 市営住宅での年金暮らし|家賃の不安を解消するための手続き(まとめ)
高齢者や単身世帯向け!市営住宅の家賃減免制度

市営住宅には、年ごとの収入申告による家賃の見直しとは別に、特別な事情で家賃の支払いが著しく困難になった世帯を対象とした「家賃減免制度」があります。これは、高齢者や単身世帯の方にとっても、いざという時のセーフティネットとなる制度です。
この制度は、失業や長期の病気、災害などで収入が大幅に減少した場合に、申請に基づいて家賃を一定期間、減額または免除するものです。減免の割合や期間は自治体によって異なりますが、収入状況に応じて家賃が半額や4分の1になるなど、大きな負担軽減につながります。
減免の対象となる主なケース
- 世帯の収入が、定められた基準を大幅に下回った場合
- 入居者が6ヶ月以上の長期療養を必要とし、医療費の負担が大きい場合
- 火災や自然災害で大きな被害を受けた場合
- その他、世帯主の死亡など、特別な事情があると自治体が認めた場合
この制度を利用するためには、家賃を滞納していないことが前提条件となる場合がほとんどです。支払いが困難になったら、滞納してしまう前に、速やかにお住まいの自治体の住宅担当窓口へ相談し、申請手続きを行うことが鍵となります。
年金生活の負担を軽くする国の家賃補助とは?

市営住宅の家賃減免制度とは別に、国が主体となって実施している「住居確保給付金」という家賃補助制度もあります。これは、主に離職などによって住居を失うおそれのある方を対象とした制度ですが、現在は要件が緩和され、年金生活で家計が厳しい方も利用できる可能性があります。
この制度の大きな特徴は、市営住宅だけでなく、民間賃貸住宅に住んでいる方も対象となる点です。申請が認められると、原則3ヶ月間(最大9ヶ月まで延長可能)、自治体が定める上限額の範囲内で家賃相当額が支給されます。支給された給付金は、自治体から直接、大家さんや管理会社の口座へ振り込まれるのが一般的です。
申請には、収入や預貯金額が一定の基準以下であることなどの条件がありますが、生活に困窮している場合は、まずお住まいの地域の「自立相談支援機関」に相談してみることをお勧めします。公営住宅の減免制度と合わせて、知っておくと心強い支援策の一つです。
年金暮らしで家賃が払えない…滞納する前の相談先

万が一、家賃の支払いが期日までにできそうにないと感じたら、何よりもまず「放置しない」ことが大切です。早めに行動することで、深刻な事態を避けられます。
最初に相談すべき相手は、大家さんや管理会社です。支払いが遅れそうな事情を正直に話し、いつまでに支払えるかの見通しを伝えると、支払期限の延長や分割払いに応じてもらえる可能性があります。誠実な対応は、信頼関係を維持する上で非常に重要です。
もし当事者間での解決が難しい場合は、公的な窓口に助けを求めましょう。お住まいの市区町村の福祉課や、前述した「自立相談支援機関」などが主な相談先となります。
これらの窓口では、生活状況をヒアリングした上で、「住居確保給付金」などの利用可能な制度の案内や、家計の立て直しに向けた専門的なアドバイスを受けることが可能です。
家賃の滞納が3ヶ月以上続くと、契約解除や法的な手続きに進んでしまうリスクが高まります。そうなる前に、一人で悩まず、できるだけ早い段階で外部に相談する勇気が、住まいを守るための第一歩となります。
老後の住まいとしての公営住宅、そのメリットと注意点

老後の住まいとして公営住宅を選ぶことには、多くのメリットがある一方で、いくつか知っておくべき注意点も存在します。
最大のメリットは、やはり経済的な負担の軽さです。
項目 | 公営住宅 | 民間賃貸住宅 |
家賃 | 収入に応じて低額に設定 | 市場価格に基づき高額になりがち |
礼金・仲介手数料 | 原則不要 | 家賃1~2ヶ月分程度が必要 |
更新料 | 原則不要 | 2年ごとに家賃1ヶ月分程度が必要な場合が多い |
家賃そのものが安いだけでなく、入居時や契約更新時にかかる費用も大幅に抑えられます。これは、限られた年金収入で暮らす上で、非常に大きな利点です。
一方で、注意点としては、まず入居のしやすさが挙げられます。希望すれば誰でもすぐに入れるわけではなく、募集時期が限られており、応募者多数の場合は抽選となります。特に利便性の高い物件は競争率が高く、入居までに時間がかかることも少なくありません。
また、建物の古さや設備面も確認が必要です。築年数が古い団地では、エレベーターがなかったり、室内の段差が多かったりする場合もあります。さらに、ペットの飼育禁止やリフォームの制限など、共同生活ならではのルールも存在します。
これらのメリットと注意点の両方を理解した上で、ご自身のライフスタイルや価値観に合っているかを慎重に判断することが、後悔のない住まい選びにつながります。
市営住宅での年金暮らし|家賃の不安を解消するための手続き(まとめ)
この記事では、市営住宅における年金暮らしと家賃に関する様々な情報をお届けしました。最後に、安心して暮らしていくための重要なポイントをまとめます。
- 年金収入のみでも市営住宅への入居は十分に可能である
- 高齢者世帯や単身世帯は入居資格や収入基準で優遇されることが多い
- 市営住宅の家賃は世帯の所得に応じて決まり、毎年見直される
- 政令月収が低いほど家賃も安くなる仕組みになっている
- 住民税非課税世帯は最も低い家賃区分が適用されやすい
- ご自身の年金額を基におおよその家賃をシミュレーションできる
- 年金生活では税金や社会保険料が天引きされることを理解しておく
- 収入が減った場合、年に一度の収入申告で翌年度の家賃が下がる
- 失業や病気など特別な事情があれば家賃の減免制度を申請できる
- 民間賃貸に住んでいても国の家賃補助(住居確保給付金)を利用できる可能性がある
- 家賃が払えないと感じたら、滞納する前に大家さんや公的機関に相談する
- 公営住宅は初期費用や更新料がかからず経済的メリットが大きい
- 入居には抽選があり、すぐに入れない場合がある点に注意が必要
- 建物の古さや共同生活のルールも事前に確認することが大切
- 正しい知識を持つことが、経済的な不安を減らし、穏やかな老後生活につながる
