「市役所と区役所の違い」について、あなたは正しく説明できますか。私たちの暮らしに欠かせない行政手続きでは、市役所でできることや適切な窓口を知っておくことが大切です。
また、働く場所として考えた場合、市役所や区役所への就職や、気になる市役所と区役所の給料の違いなど、知っているようで知らない点は意外と多いものです。これらの違いを正確に理解していないと、いざという時に手続きで手間取ったり、就職活動でミスマッチが起きたりするかもしれません。
この記事では、そのような疑問や不安を解消するため、市役所と区役所の根本的な違いから、実生活やキャリアに関わる具体的な差まで、分かりやすく解説していきます。
- 市役所と区役所の法的な位置づけと権限の差
- 暮らしの手続きで迷わないための窓口の違い
- 働く場所としての採用や給料、キャリアパスの違い
- 政令指定都市と東京23区の「区」の根本的な違い
市役所と区役所の違いを知るための基本

- 市役所と区役所の決定的な違いは?設置根拠と権限を解説
- あなたの街の区役所はどっち?2種類の「区」を見分ける
- 区役所の職員は公務員ですか?
- 市長と区長の選出方法と権限の違い
- 法人格や条例を制定する権限の有無
- 自治体としての議会の設置状況
市役所と区役所の決定的な違いは?設置根拠と権限を解説

市役所と区役所の最も決定的な違いは、その設置根拠と法的な位置づけにあります。要するに、市役所がひとつの独立した自治体であるのに対し、区役所は市という自治体の一部門であるということです。
市役所は、地方自治法に基づき設置される「市」という独立した法人格を持つ地方公共団体です。これに対して、私たちが一般的にイメージする区役所は、主に政令指定都市に設置される「行政区」の事務所を指します。
行政区は法人格を持たず、あくまで市長の権限に属する事務を分担するために設けられた、市の内部組織という位置づけになります。
このため、市役所は自らの意思で条例を制定したり、予算を決定したりする権限を持ちますが、区役所にはありません。区役所の運営は、すべて市が定めた条例や予算の範囲内で行われます。
あなたの街の区役所はどっち?2種類の「区」を見分ける

「区役所」と一括りにされがちですが、実は日本には大きく分けて2種類の「区」が存在します。一つは横浜市や大阪市などの「政令指定都市」に置かれる「行政区」、もう一つは東京都にのみ存在する「特別区」です。
前述の通り、行政区は市の内部組織であり、独立した自治体ではありません。区役所は、市役所の出先機関として、住民に身近な窓口業務などを担います。
一方、東京23区(千代田区や新宿区など)に代表される特別区は、市町村とほぼ同等の権限を持つ独立した基礎自治体です。このため、特別区の区役所は、行政区の区役所よりもはるかに広範な権限と役割を持っています。
自分の住む街や関心のある地域の区役所がどちらの種類なのかを理解しておくことは、行政サービスや地域の仕組みを知る上で大切です。
区役所の職員は公務員ですか?
区役所で働く職員は、公務員です。より正確に言うと、国ではなく地方自治体に所属する「地方公務員」に分類されます。これは、政令指定都市の行政区であっても、東京23区の特別区であっても同様です。
公務員には、国の機関で働く「国家公務員」と、都道府県や市区町村で働く「地方公務員」があります。区役所の職員は後者に該当し、地方公務員法という法律のもとで、その身分や労働条件が定められています。
また、地方公務員の中にも、選挙で選ばれる区長などの「特別職」と、公務員試験を経て採用される大多数の職員である「一般職」という区分があります。私たちが窓口などで接する区役所の職員のほとんどは、この「一般職」の地方公務員です。
市長と区長の選出方法と権限の違い

市のトップである「市長」と、区のトップである「区長」では、選出方法と権限が大きく異なります。この違いは、市役所と区役所の法的な位置づけの差から生じています。
市長は、市民による直接選挙によって選ばれます。市の代表として、行政全般の最終的な決定権を持ち、非常に強い権限を有しています。
これに対し、政令指定都市の区長は、市長によって任命される市の職員です。選挙で選ばれるわけではないため、市民に対して直接的な責任を負う立場にはありません。
その権限も、市長から分担された事務の範囲内に限定されます。ただし、例外として東京23区の特別区長は、市長と同様に区民の直接選挙で選ばれます。
法人格や条例を制定する権限の有無

市役所と区役所の違いを理解する上で、法人格と条例制定権の有無は鍵となるポイントです。市役所を運営する「市」は、独立した法人格を持つ地方公共団体です。
これにより、市は契約の主体となったり、財産を所有したりできます。さらに、市議会の議決を経て、地域の実情に合わせた独自のルールである「条例」を制定する権限も持ち合わせています。
一方、政令指定都市の「区」には法人格がありません。あくまで市の内部組織であるため、区が単独で契約を結んだり、条例を制定したりすることは不可能です。区役所が行うすべての業務は、市が制定した条例に基づいて執行されます。
項目 | 市役所(一般市・政令指定都市) | 区役所(政令指定都市の行政区) |
法人格 | あり | なし |
長の選出 | 住民の直接選挙(市長) | 市長が任命(区長) |
議会 | あり(市議会) | なし |
条例制定権 | あり | なし |
課税権 | あり | なし |
自治体としての議会の設置状況

市役所と区役所では、住民の代表によって構成される「議会」の設置状況も根本的に異なります。これも、両者の法的な位置づけの違いを明確に示しています。
市には、市民から選挙で選ばれた議員で構成される「市議会」が必ず設置されます。市議会は、条例の制定や改廃、予算の決定、決算の認定など、市政の重要な意思決定を行う役割を担います。市長が提案した方針をチェックする機能も果たしており、二元代表制の一翼を担う重要な機関です。
しかし、政令指定都市の行政区には「区議会」は存在しません。区は独立した自治体ではなく、市の内部組織であるため、独自の議会を持つ必要がないからです。区の運営に関する事項は、すべて市議会で審議、決定されます。
市役所と区役所の違いを多角的に比較

- 市役所と区役所、暮らしの手続き窓口はこう違う!
- 市役所と区役所への就職、キャリアパスと採用の違いは?
- 市役所と区役所で給料は違う?公務員の給与体系を比較
- 給与に影響する地域手当やボーナス
- 異動の範囲とキャリアパスの違い
- 市役所と区役所の違いを正しく理解しよう(まとめ)
市役所と区役所、暮らしの手続き窓口はこう違う!

日々の暮らしに関わる行政手続きにおいて、市役所と区役所のどちらに行けばよいのかは、多くの方が迷うポイントです。特に政令指定都市にお住まいの場合、基本的な窓口業務は区役所で完結することが多くなっています。
住民票の写しの取得や、転入・転出・転居といった住所変更の手続き、印鑑登録などは、お住まいの区の区役所で行うのが一般的です。また、国民健康保険や国民年金、福祉関連の申請窓口も、通常は区役所に設置されています。
ただし、戸籍に関する手続き(戸籍謄本・抄本の取得など)は、2024年3月以降は本籍地以外の市区町村役場でも取得できるようになりました。ただし、兄弟姉妹の戸籍など一部は本籍地での手続きが必要です。
また、市税に関する一部の専門的な相談や手続き、あるいは市全体に関わるような許認可などは、区役所ではなく市役所の本庁舎でなければ扱えない場合があります。手続きの内容によって窓口が異なるため、事前に市のウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせることが確実です。
市役所と区役所への就職、キャリアパスと採用の違いは?

公務員として働くことを考えた場合、市役所と区役所では採用の仕組みやその後のキャリアパスに違いがあります。
採用試験の違い
まず、政令指定都市で働く場合、「区役所職員」という独自の採用試験はありません。市の職員として「市職員採用試験」に合格する必要があり、その後の配属先として市役所の本庁舎や各区役所が決まります。
一方、東京23区で働く場合は、「特別区職員採用試験」という23区共通の試験を受験します。合格後、本人の希望や成績、適性などを考慮して、いずれかの区に配属されるという流れです。
キャリアパスの違い
政令指定都市の職員は、一度区役所に配属されても、数年ごとの人事異動で本庁舎や他の区役所、事業所などへ移ることが一般的です。幅広い部署を経験し、ゼネラリストとして成長していくキャリアパスが描かれます。
これに対し、特別区の職員は、原則として採用された区の中でキャリアを積んでいきます。区役所内の様々な部署を経験し、より地域に密着した専門性を高めていくことが期待されるでしょう。
市役所と区役所で給料は違う?公務員の給与体系を比較
市役所職員と区役所職員の給料は、地方公務員の給与体系に基づいていますが、勤務する自治体の規模や地域によって差が生じます。
公務員の給料は、各自治体が条例で定める「給料表」と、地域手当や扶養手当といった「各種手当」の合計で決まります。同じ政令指定都市の職員であれば、市役所の本庁舎に勤務していても、区役所に勤務していても、適用される給料表は同じです。したがって、基本給に差はありません。
しかし、全国的に見ると、給与水準には違いが見られます。一般的に、人口規模が大きく財政力のある政令指定都市や、物価の高い東京23区は、他の市町村に比べて給料や手当が高めに設定される傾向があります。総務省の調査によると、政令指定都市職員の平均給与月額は、他の市よりも高い水準です。
給与に影響する地域手当やボーナス

公務員の年収を左右する大きな要素として、「地域手当」と「期末・勤勉手当(ボーナス)」が挙げられます。
地域手当は、勤務地域の民間企業の賃金水準や物価などを考慮して支給される手当です。これが、市役所と区役所の給与水準に差をもたらす主な要因となります。
例えば、東京都特別区では給料月額の20%が地域手当として支給されるなど、都市部ほど支給率が高くなる傾向にあります。地方の市町村では、この手当が支給されないか、支給率が低い場合もあり、年収に大きな差が生まれるのです。
また、ボーナスにあたる期末・勤勉手当は、各自治体の人事委員会の勧告に基づき、支給月数が決められます。近年は年間で4.6ヶ月分前後を支給する自治体が多いですが、これも財政状況などによって変動する可能性があります。
異動の範囲とキャリアパスの違い

前述の通り、市役所と区役所では、職員の異動範囲とキャリア形成の考え方に違いがあります。これは、就職先を選ぶ上で重要な判断材料になります。
政令指定都市の職員として採用された場合、異動の範囲は市全域に及びます。区役所の窓口業務から、本庁舎の企画部門、さらには水道局や交通局といった事業所まで、多種多様な職場を経験する可能性があります。
これは、幅広い視野を持つ行政のプロフェッショナル(ゼネラリスト)を育成するという考え方に基づいています。
一方で、東京23区の特別区職員は、採用された区の内部での異動が基本です。区の福祉、教育、まちづくりなど、特定の地域に深く関わりながらキャリアを築いていきます。
地域への愛着が深く、腰を据えて働きたいと考える人にとっては魅力的な環境と言えるかもしれません。ただし、視野が区内に限定されやすいという側面も考えられます。
市役所と区役所の違いを正しく理解しよう(まとめ)
この記事では、市役所と区役所の多岐にわたる違いについて解説しました。最後に、重要なポイントを改めて整理します。
- 市役所は独立した法人格を持つ地方公共団体
- 政令指定都市の区役所は市の内部組織
- 東京23区は市町村とほぼ同等の特別区
- 市役所は条例制定権や課税権を持つ
- 区役所(行政区)には条例制定権や課税権がない
- 市長は選挙で選ばれ、区長(行政区)は市長に任命される
- 市には市議会があるが、区(行政区)には区議会がない
- 区役所の職員は地方公務員
- 住民票や住所変更は身近な区役所で手続きできることが多い
- 戸籍の手続きは本籍地の役所が基本
- 政令市の職員採用は市役所として一括で行われる
- 特別区の職員採用は23区共通の試験で実施される
- 給料の基本給は同じ市の職員であれば勤務地で変わらない
- 年収の差は主に地域手当によって生じる
- 政令市の職員は市全域に異動の可能性がある
